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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)750号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士中村喜一、同逸見惣作の上告理由第一点、同海野普吉、同柳沼八郎の上告理由、同小野清一郎、同竹内誠の上告理由第三点について。

原判決理由の請求原因(2)の(ホ)についての判示は、簡単であつて明瞭を欠く点がないでもないが、その判示は結局、同判示のごとく投票立会人が代理投票の補助者を兼ねることは許されないところであり、したがつて投票立会人が代理投票の補助者としてした代理投票は、違法であると解すべきであるとした上、しかしながら成立に争のない甲第一二号証の一ないし一〇、証人駒井幸蔵、立花正信の各証言を総合すれば、本件代理投票の行われた投票所は十箇所であり、その行われた代理投票の数は同号証記載のごとく投票所一箇所につき三票ないし四二票であつてその投票は概して閑散であつたばかりでなく、その代理投票の行われたときには一般投票は殆んどなされなかつたことを窺知することができるのであるから、本件代理投票の補助は、一般の投票立会人としての監視には差支えを生じなかつたものであつて、前示の違法は選挙の無効原因とならない旨を判示した趣旨と解することができる。そして、かような場合は、立会人が法定数を欠いても、それがために選挙の結果に異動を及ぼす虞がないのであるから、選挙の効力に影響しないものと解するを相当とする。それ故、原判決は、結局正当であつて、論旨は採るを得ない。(なお、判例違反をいう点は、引用の判例は事案を異にし本件に適切でないから、採ることができない。)

同小野清一郎、同竹内誠の上告理由第一点について。

しかし、請求原因(2)の(イ)についての原判決の判断は、挙示の証拠に照しこれを肯認することができ、所論の経験則違背は認められない。また、所論投票無効の主張は、本件選挙無効訴訟の原審で主張されなかつたところであるから、所論の判断遺脱の違法も認められない。

上告代理人弁護士中村喜一、同逸見惣作の上告理由第二点、同小野清一郎、同竹内誠の上告理由第二点について。

原判決は、請求原因(2)の(ニ)について、挙示の証拠を総合すると、甲第九号証の一ないし二六に選挙人として記載されてある二六名の者はいずれも岩手町職員であるが、岩手町選挙管理委員会委員長は、、昭和三〇年八月一九日町長職務執行者代理者に対し右二六名を本件選挙の事務従事者として依頼したいから許可されたい旨を申請し、右代理者は同月二四日これを承認したので、委員長は右二六名に選挙事務に従事すべきことを依頼したこと、右二六名は選挙に関係のある職務に従事するものであるから、不在者投票の事由に該当する旨の証明書は、公職選挙法第四九条第一号、同法施行令第五二条第一項第一号によつて町選挙管理委員会委員長の証明でなければならないのに、町長職務執行者代理者名義の証明書であるから、右証明書は違式のものであること、右二六名の一人である津志田幸平は、選挙当日午後八時三〇分ごろから開始さるベき開票の際の有効投票判定係であるから、不在者投票の事由がないものであること、甲第一〇号証の一、二記載の選挙人二名は、不在者投票の事由に該当する旨の証明書を提出しないのに公職選挙法施行令第五二条第三項の疏明をしたと認められないこと、右二八名は不在者投票をしたことを認めることができる旨認定したこと、並びに、本件では、証明書を徴せず、かつその事由を疏明させないで不在者投票をさせた者は、わずかに二名であり、不在者投票の事由があると認められないのに、証明書を交付したものは一名であり、また、選挙事務に従事する二六名(上記一名をふくむ。)は、いずれも岩手町職員であつて、かつその不在者投票事由が町長職務執行者代理者に明らかであつたので、右代理者が証明書を交付したのであるから、その証明者を誤つたとはいえ、その違法の程度は軽徴であつて、全然証明書を徴しなかつた場合と同一に論ずることができないのであるから、右の違法は本件選挙の執行を無効としなければならないほど重大なものと認めることはできない旨判示したことは、所論のとおりである。そして、公職選挙法施行令五二条一項一号は「……選挙人が従事している職務若しくは業務に係る官公署の……長又はその代理人」と規定しているから、原判決の確定したように岩手町選挙管理委員会委員長が町長職務執行者代理者に判示のごとき許可を申請しこれが承認を得て判示二六名に選挙事務に従事すべきことを依頼したような場合には、不在者投票の事由に該当する旨の証明書は、町長職務執行者代理者においても作成し得るものと解するを相当とする。また、原判示津志田幸平は、原判示のごとく他の二五名の者と同じく適法に選挙に関係のある職務に従事するものであるから、たまたま選挙当日午後八時三〇分ごろから開始さるべき開票の際の有効投票判定係に従事したからといつて不在者投票の事由がないものと速断することはできない。しかのみならず、かりに選挙管理委員会委員長が作成すべき不在者投票事由に該当する旨の証明書を誤つて町長職務執行者代理者が作成し又は開票事務のみに従事すべき者が不在者投票をしたことが違法であるとしても、その違法は、証明者側若しくは投票者側の違法であつて、かかる証明書を提出したために投票をなさしめた選挙の管理執行に関する規定違反ということはできない。さすれば、本件選挙における違法な不在者投票で選挙の効力に関係あるものは二名に過ぎないから、本件不在者投票は選挙無効原因にならないとした原判決は結局正当であつて、論旨は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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